街の隙間に満ちる広がり
駅至近という都市の密度にあって、限られた敷地に5人家族のための豊かさを編み込んだ住まい。街の気配と適度な距離を保ちながら、生活領域を丁寧に囲い、内側には明るさと風通しを静かに導いている。高さや奥行き、開口の操作により、限られた敷地に最大限の広がりを持たせた構成とした。都市に空いたわずかな隙間に、暮らしの広がりが静かに息づいている。

南側外観 都市の隙間に建ち、最大限の広がりを包む
都市の静けさにひらいた空と家族の居場所
リビングルームは建物の最上階にあたる3階に配置され、地上の喧騒から静かに距離をとる。吹き抜けと天窓によって空とのつながりを確保し、都市の密度のなかにあっても、空間に伸びやかな開放感と光のやわらかさが広がる。日中には、ひだまりがゆっくりと室内を横断し、時間の移ろいとともにリビングの表情が静かに変化していく。時折、夜の天窓から月が顔をのぞかせ、静かな光が天井を撫でるように室内へと差し込む。そんな空間には、自然と家族が集まり、語らいや気配が重なっていく。浮遊するような位置づけのなかで、日々の営みが穏やかに息づく場となっている。

3階リビングルーム 吹き抜けの広がりと天窓から光を取り入れる
重なりながら、つながりながら、暮らしが息づく家
限られた敷地条件のなか、各階にひと部屋ずつを配することで、住まいの輪郭を明快に描き出している。1階では作業空間が緩やかな中継点となり、人の動線を自然に上階へと誘引する。2階は階段と寝室の間に水まわりを挿入することで、仕切らずとも一定の距離と静けさが確保され、生活のリズムが心地よく保たれる構成とした。3階ではリビングとダイニングを水平につなげ、さらにロフトとゆるやかに連続させることで、垂直・水平両方向の広がりと連続性が生まれている。いずれの階も、風の通り道と視線の抜けを意識的に設計することで、面積の制限を超えた軽やかさが住まい全体に満ちている。

断面構成

3階内観 リビング、ダイニング、ロフトが一体でつながる

2階内観 水回りのボリュームを介して寝室を配置

1階内観 作業スペースを介し奥の動線に誘引される
抑えた高さに、使い勝手の奥行きをひらく
全体の高さを抑えた構成のなか、各階の天井高は最低限に設定しつつ、身体スケールに配慮した設えによって空間の親密さと包容力が生み出されている。1階ワークスペースでは床を掘り込み、天板を配置することで座面高さでの作業を可能にした。その上部には寝台としても使える空間を重ね、限られた寸法のなかに多層的な使い方を編み込んでいる。3階リビングに接するロフトも、端部に一枚板の天板を設け、床面高さで過ごす姿勢を誘うことで、天井の低さが居心地へと転化されている。寸法を抑えることは暮らしを縮めるのではなく、むしろそこに身体の居場所と生活の濃度を仕込む契機となる——都市住居の限界に寄り添いながら、生活シーンの質を丁寧に積層した構成である。

ロフトから吹き抜け上部を望む 端部に配置された天板は床座の作業を誘う

1階作業スペース 掘り込まれた床と机状の天板の上には寝台にもなるスペースが重なる
納まりに光と空気の道を仕込む
限られた寸法のなかでも、空間の広がりを保つための細やかな納まりが随所に施されている。2階の浴室にはガラス扉を用い、浴室の窓から差し込む光がそのまま室内へと連続し、空間の奥行きと透明性を生み出している。洗面は大きな鏡面を採用し、映り込みの風景と反射光により、実寸を超えた広がりの感覚を与えている。3階のロフト端部には格子状の床を設け、光と空気がゆるやかに通り抜けることで、上下階の気配を穏やかにつなげている。全階を貫く螺旋階段は、支柱から踏板だけを跳ね出すディテールとすることで、視線の抜けを妨げず、空間の連続性と軽やかさに寄与している。必要な機能が隣り合いながら、緩やかにつながる設えである。

浴室 ガラス扉が奥へ光を導き入れる

洗面 映り込みが空間の広がりを創出

ロフト 格子状の床が下階と呼応する

階段 上下階を軽やかにつなぐ
概要
東京都江東区
一戸建住宅
木造3階
敷地面積:45.50m2
建築面積:30.87m2
延べ面積:91.72m2
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